猪八戒はおキレイな玄奘三蔵様というものについて考えてみました。
例えば刺客に襲われて応戦するとどうなるでしょう。
「なんと八戒、仏の道は無殺生ですよ!!」
ワガママなのは大して変わりませんがこちらの方がより面倒なカンジです。
沙悟浄もやはりおキレイな玄奘三蔵様について考えげんなりします。
「どういうことですか悟浄、女性のところへ行くなどもってのほかです。」
沙悟浄にとっては拷問のようなものです。
孫悟空はおキレイな玄奘三蔵様について考え明らかに顔を青くしました。
「悟空、僧侶の肉食は戒律で止められているのですよ。」
(しかも抵抗したら撃たれるしッ!)
↑それは汚い玄奘三蔵の方ですが、孫悟空は混乱しているようでした。
その上ヴィジュアルはあの玄奘三蔵ですからタチの悪いことこの上ありません。
三人とも意見は一致です。しかしどうすれば元の汚い玄奘三蔵を返してもらえるのか
誰にも分かりません。張り詰めた空気の中時間だけが刻々と流れていきます。
遂にそれに耐えられなくなった孫悟空が声を上げました。
「だれだかしんねえけどもういいだろ!?三蔵返せよ、俺にはど
んなに目付き悪くたって根性曲がってたって暴力過剰だってそ
っちの汚い三蔵がいいんだ!!」
感動的な台詞……の筈です。
女神はにこりと微笑み言いました。
「あなたはとても正直ですね。褒美にこのきれいな三蔵
をあげましょう。」
本物の玄奘三蔵はフッと笑いむしろ静かに告げました。
「悟空、てめぇあとで殺す。」
「ぎゃー。」
悟空はもう様々な意味で真っ青です。
(肉食えなくなる!!)
と思ったらそっちの方だったようです。しかし玄奘三蔵(汚)の怒った理由は何だったのでしょ
う。答えは単に自分が悪く言われたことにキれただけのようです。そんな振る舞いが玄奘三蔵
(汚)とされる由縁だとは彼はちっとも思いません。
女神は玄奘三蔵(綺麗)を岸に上げ、またざぶざぶと泉へ帰っていきます。
相変わらず片手にぶら下げられた玄奘三蔵(汚)に猪八戒は手を振りました。
「三蔵、溺れないように気をつけてくださいね!!」
玄奘三蔵(汚)はとても難しい要求を受けていました。しかしどうすればそうできるか考える
よりも早くとっとと泉に引きずり込まれてしまいました。
さて、相変わらずアルカイックな微笑を湛えた玄奘三蔵(綺麗)を前に三人はどうしたものかと頭を
抱えるのでした。
一方その頃、天竺は吠塔城。
適当にながしただけの髪に眼鏡、そして着たきりの白衣の男、健一博士はひとりにやりとしていま
した。
その様子に気付いた黄博士が眉を寄せます。
「一体どうしたって言うんですか、気味の悪い。」
本当にその通りです。しかし悪びれる様子も無く健一博士は軽く笑って答えました。
「いや、ひとの欲望を映す鏡っていうのは面白いものだと思ってね。」
どうやら今回の件は彼の仕業のようです。しかし彼にしてはひねりが足りないといわざるを得ない
でしょう。というのも当初の予定ではこういうストーリー展開になるとは作者ですら考えていなか
ったからです。
「はあ?」
黄博士はますます顔をしかめるのでした。
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