金の●●、銀の●●



昔々あるところに、西を目指して旅をしているお坊さんの一行がありました。最高僧の誉れも高い 玄奘三蔵と、(三蔵曰く)その下僕の妖怪、孫悟空、沙悟浄、猪八戒の四人です。
ある日四人は過酷な旅の疲れを癒そうとうつくしい泉の辺で野宿することにしました。
磨き上げられた鏡のような水面には一行の熾した焚き火の暖かな色が映り、辺りは静かで焚き火の はぜる音だけが響いていました。
「あー俺のニクッ!!」
「うっせーんだよ、取ったモン勝ちだろ、こういうのはッ!それにさっきからサル、てめぇばっか 食ってるだろうが!!」
「早いモン勝ちなんだからいーじゃんッ!!」
「てめぇ、自分の言ってる事矛盾してんの分かってるか!?」
「二人とも静かに食べましょうね?まだたくさんありますから。」
・・・・・・辺りはとても静かでした。
「そんなだったら悟浄の言ってんのだって矛盾じゃんッ」
「サルが生意気なッ……!」
「あー俺の勝ち?勝ち!?」
「うっせーんだよッ!」
「ぎゃー暴力反対だって!」
「二人とも……」
そろそろナレーションでも誤魔化せない勢いです。猪八戒は二人の間に割って入ろうかとも思いま したが、玄奘三蔵の様子から既に手後れだと気付きここは黙っているのが身の為だと思いました。
「貴様らいー加減に・・・・・・」
そこでいつもなら問答無用でハリセンが飛んでくる筈でした。
しかし。
「……あッ……」
振りかぶった玄奘三蔵の頭上、手が滑ったのかすっぽ抜けたハリセンは見事な放物線を描いて……




ひゅ
















ぽちゃん




泉へと落ち、紙で出来ていると言うのに何故かとっぷり沈んでしまいました。
「クソッ」
玄奘三蔵は忌々しげに舌打ちを漏らすと改めて、孫悟空、沙悟浄の二人に向き直りました。
「てめぇらのせいだぞ!?取ってこい!今すぐ取ってこい!!今すぐさあッ」
見事な責任転嫁です。流石最高僧といったところでしょうか。しかしそれよりもハリセンは彼に とってそれなりに大事なものであったようです。
「なッ……てめぇで落としといて言うか!?」
「三蔵タンマ、それなしッ」
ハリセンを失った三蔵の武器は残すところあと一つです。



ガウンガウン



「ぎゃああああああッ」
「死ぬッ、死ぬって三蔵!!」
「だから殺すつってんだよ!?」
静かな森に銃声と悲鳴が入り乱れます。一向にとっては日常茶飯事ですがその様はよくよく考えると 阿鼻叫喚の図ともとれなくはありません。しかし猪八戒は苦笑を漏らしながら見守るのでした。
しかし猪八戒は何気なく泉へと視線を遣り表情を変えました。
「ちょっと」
「殺ゥす!!」
「ぎゃあああああああああ」
しかし三人は聞いちゃいません。そこで猪八戒は少しだけ語気を荒げました。






「ワレェ、ちょおヒトのハナシくらいきかんかいコラァッ!!」
スーパースーパースーパー八戒ッ♪



「・・・・・・。」
効果は覿面でした。三人の顔は殆ど固まっていましたが、猪八戒は平然といつもの……違います、 驚いた様子で泉を指差しました。
「あれを見てください!」
「なんだあれは・・・・・・!」
流石の最高僧も驚きを隠せません。ハリセンの落ちた波紋も収まらない泉の水面から眩い金色の 光が漏れているのです。
「うわあ・・・・・・」
孫悟空が驚きとも感嘆とも取れぬ呟きを漏らす中、水面はにわかにざわめきそして……。
「オオッ!?イケてんじゃん!!」
思わず沙悟浄も口笛の一つも吹きたくなるようなイケて……ゴホン、それはそれは美しい女性が 水面に立っていました。
「さては新手の刺客か!?」
玄奘三蔵様はどうやら昔話に疎いようです。今にも銃を振りかざさんとする玄奘三蔵を猪八戒が 制します。
「よく見てください三蔵。」
泉に降り立った女性……泉の女神の手には先刻三蔵の落としたハリセンが握られていました。そ してもう片方の手には輝く金のハリセン、銀のハリセンがあります。
(これは……!)
玄奘三蔵以外の三人は後の展開に気付き息を呑みました。しかし玄奘三蔵は目の前で起こった不 思議な出来事に目を奪われふらふらと泉の縁に歩み出ていました。
女神は唄うようなうつくしい声で問い掛けます。
「あなたが落としたのはこの金のハリセンですか?銀のハリセンですか?それともこの紙のハ リセンですか?」
(三蔵、この機に旅の資金を稼ぐんです・・・・・・!)
(頼んだぜ三蔵・・・・・・!)
(これで毎日焼肉・・・・・・!)
三人の期待がいっせいに玄奘三蔵の背にかかります。
一つ息を吸い込み・・・・・・

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