lovely babe 2
「てーワケよ。」
三蔵にしたのと大体同じ説明を悟浄はそう締め括った。悟空はと言うと、話の途中から笑いっぱなしだ。
「悟浄がお父さん―!?」
「ついでにお母さんは三蔵らしいですよ。」
空になったマグカップを片付けついでに八戒が一言挟んだ。それを聞いて悟空は一層笑い転げた。
「ありえね―!相当スゴイ絵じゃん!」
八戒は釣られて想像する。芽衣を真ん中に、三人並んで歩く三蔵たち―。
「あはははは、相当ハデハデ親子ですねー。」
「そんで柄も悪い!」
「言えてますねー。」
「うるさいわ!」
―スパァァァァン
遂にハリセンの一撃が降り注いだ先はと言うと。
「待て!俺か?今のは俺か!?」
思わず腰を浮かしかけて、悟浄はふと膝の上が先程よりも重くなっている事に気付く。
「そもそもの原因はテメーだろうが!……どうした?」
三蔵が喧嘩腰の台詞を途中で引っ込めた。悟浄が芽衣の顔を覗き込むようにしている。
「寝ちゃってるわー。カワイーなああああ。」
三蔵はそんなことか、と息をついた。
「フン、くだらん。」
「それは困りましたね。これから買出しに出ようと思ってたんですけど。ついでに一緒に連れて行けば、親御さんも捜せるかと思ったんですが。」
思案気に腕組みする八戒に、悟空が大丈夫だろと声をかけた。
「起こしたらカワイソーじゃん。宿の人にでもゆっとけば大丈夫だって。それに三蔵残るってさっきゆってたし。」
約二名の突き刺さるような視線を感じて三蔵はあのなあ、とぼやいた。
「俺を何だと思ってるんだ?寝てるガキの面倒くらいサルでも見れる。構わんから行って来い。」
「ホントかー?」
「ハリセンも体罰に入るんですよ?」
一斉攻撃に三蔵は馬鹿にしてるのか、とだけ返す。悟空がその間に芽衣をベッドに運んだ。三蔵が陣取っているテーブルセットに一番近い場所を選んだ。
「じゃ、僕ら出かけてきますけど無理はしないでくださいね。」
「どんな無理をしろってんだ。」
一番最後に部屋を出かけていた八戒が、忘れてましたと足を止める。
「さっき言いかけてたんですけど、小さいコの傍では禁煙ですからね。でも僕らの出かけている間は目も離さないようにお願いしますね。」
「なッ」
上げかけた抗議の声はしかしバタンと閉ざされたドアに阻まれ八戒の耳に届く事は無かった。ドアから目線を引き剥がし、三蔵はすやすやと眠る芽衣を見遣る。
「ったく面倒な……。」
手にしていた残り僅かの内の一本の煙草を慎重にパッケージに戻し、それから少し思案してそれまで読んでいた全国版の一般的な新聞をたたむ。もう一誌あった筈だ―部屋に備え付けのマガジンラックを探るとスポーツ新聞ではあったが別の新聞が見つかった。
まあ、暇潰しにはなる。
再び椅子に腰を吸えて、バサリ、とそれを広げる。と。
そう大きな音でも無かった筈だ。しかし。
「パパは―?」
不吉な予感にそろそろと新聞を下げると、ベッドの上、しっかり起き上がった芽衣の姿があった。
「おまえなあ……」
さっき寝たとこだろ、と続ける言葉は力無く飲み込まれた。
深々と溜息して肩を落とす三蔵を、芽衣は不思議そうに見上げていた。
「な―、晩メシまで時間あるだろ?あそこ入って何か食って帰ろーぜ!」
悟空が抱えた紙袋の向こうをピッと指で示した。定食屋か何かだろうか。夕刻にはまだ早く空いてはいるが、風で揺れるのれんの間からちらほらと客の姿が見える。悟浄がすぐにのってきた。
「サンセー。」
「おや、さっさと帰るとか言い出すと思いましたけど。」
意外そうな顔をする八戒に、買ったばかりの煙草のパッケージをかざして見せた。
「まァ向こうが気になるのは山々なんだけどよ、どーせしばらくゆっくり部屋の中では吸えないだろうと思ってよ。」
「感心ですね。」
悟浄は言われずとも気付いていたらしい。『三蔵が』心配ですけど、という八戒に悟浄は何故かすぐ傍を歩いていた悟空の頭をぐしゃっとやった。
「うわ、何すんだよ!」
「だーいじょぶだって、ああ見えてアイツ、お子様ひとり育ててるワケだしよ。」
悟空が何とかその腕の下から抜け出してわめく。
「俺はあんなにちっさくなかったって!」
「内容的には似たようなモンだろ?」
「何だよソレー。」
「も―、騒ぐんならまっすぐ帰りますよー。」
八戒は眉を寄せながら、しかし既に店の入り口に向かっている。のれんをかきわけるとすぐに威勢のいい女性の声が出迎えた。
「いらっしゃ―い」
「ウィース」
遅れて悟浄が暖簾をくぐると、その女性が目を丸くした。
「あ―!」
先程の営業用の声とは明らかにトーンが違う。悟浄もンだよ、と怪訝に顔を上げた。
「あ―オマエ!なんでこんなとこにいんだよ!」
「そっちこそ!!」
同じように大声を上げ、指までさしてしまった。
「なんなの?」
その後からそろりと入ってきた悟空は八戒を見上げた。
「さあ……顔見知り、ですかね?」
「これは―?」
「ん―?……それも、悪いおじさんだな。」
「このおじさんは何したのー?」
「人をなぐ」
少し考えて言葉を変える。
「他の人を叩いたんだ。それでソイツが怪我したんだな。」
「イタイイタイ?」
「そうそう。」
「さっきママもパパ、イタイイタイしたよ。悪いの?」
「あれはアイツが悪いんだ。叱ったんだ。……それと俺はママじゃねえ。」
「ママがパパ、メッしたんだ!」
「そうそう。……だから俺はママじゃねえんだよ。」
三蔵は膝の上の芽衣にそろそろ無駄だと気付きながらも、一応律儀に訂正を入れた。
広げた両手には新聞。苦肉の策だ。
芽衣は丁度指差し遊びが好きな年頃のようで、新聞を見ながら、これは?と訪ねてくる。なので自分は適当にそれに答えながら新聞を読む。完璧な布陣だ―と、三蔵は思う。他の奴らが不在なので―そもそも一人でなければ芽衣の面倒を見る必要も無いのだが―余計な目線を気にせずにも済む。
幸いにもと言うか、スポーツ新聞なら写真も豊富でしばらくは飽きずにいてくれそうだ。
バサリ。頁を繰る音。
「これは―?これも悪いおじさん?」
「違うな、それはエライおじさんだな。」
「エライのー?パパよりエライー?」
三蔵は少し間をおいて首を振った。
「そうだな、大概のヤツはアイツよりはエライぞ。」
「じゃあパパよりママの方がエライー?」
「当然だ。」
言ってしまってから、チッと軽く舌打ちする。
「……俺はママじゃねえ。」
またひとつ頁を繰る。バサリ。
芽衣が、真っ先に頁の中ほどの小さなイラストを指差す。
「これは―?」
三蔵はまだそこまで見ていなかったので、んー?と返しながら紙面に素早く目を走らせ―慌てて更に頁を繰った。
「ガキの見るもんじゃねえ。」
不満そうな顔をする芽衣に、新たに繰った頁の下部、大きな広告写真を指差してやる。
「ほら、車だ車。」
「あ。ブーブー!」
「そうブーブーだなー。」
興を引かれる記事を見つけ、手元に新聞を手繰り寄せる。が、すとんと膝の重みが消えた。芽衣がぱたぱたとドアまで走る。
「ね!お散歩!お散歩行きたい!」
ドアノブに手をかけ、屈託の無い顔をしている。連れて行って貰えると信じて疑わない顔だ。三蔵は本日何度目とも知れない溜息を深々と、深々とついた。
→to be continued!
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