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never end

            


−あの夜。
守れなかった。
血に濡れた、冷たい身体。
もう、かえらない。

守らなくていいものが欲しい。
守られずにすむ強さが欲しい。

never end

いつでもこのこめかみを撃ち抜けるサイズ。
冷たい銃身を握り、そう思った。
それは、すぐに、いつでも、この命を手放して良い、その証だった。
今またその感触を確かめながら、
(いつでも?)
墨を落としていく様に、
(いつでも)
広がる思考。
暗く、脳の髄まで犯していく。
もう引き返せない。止められない。
気付いてしまったからだ。
(いつでも−それならば)
あのときでもよかった。今でもよかった。

血を流し
血に塗れ
血に濡れ
血に沈み
全部、終らせてしまえ。

口の中に広がる鈍錆色の味。
生の味。
生温かい感触−三十六度。
生きる温度。
器から溢れ出す生命に身をまかせる。最初からこうしていればずっと楽だった。身体は重くなり、視界は閉ざされ、全ての感覚がうすれてゆく中で、濡れてべったりとはりつく髪の感触が妙に鬱陶しい。だが、それだけ、だ。とても簡単な事だった。このまま静かに眠りに堕ちるように−終っていく。




『強くおありなさい−玄奘三蔵』





「じょ・・・ッだんじゃねえッ」
右手にひやりと伝わる銃把の感触、そして行く手を阻む敵、これが現実だ。三蔵はトリガーにかけた指に力を込める。
−ガウン
「がはッ・・・・・・何故、だ・・・・・・」
迷わず放たれた銃弾は妖怪に致命傷を与えていた。倒れながら紡ぎ出す最期の言葉に三蔵は短く返す。
「フン、こんな幻(おもちゃ)で殺られてやる程、ヤワじゃないんでな。」
見下した視線の先で事切れた相手を捉えて言い足す。
「つっても聞こえてねーか。バーカ。」
俺は強かない。
いつかそんな事を言った。今もその気持ちに変わりはない。ないが、それでも。
(ヤワじゃない。)
口に出した言葉の分だけでもあの人の教えに近づけるように、進み続けるしかない。馬鹿の一つ覚えで、ただ歩き続けるだけだ。
「あ、さんぞめーっけ!!」
振り返ればいつもの面子だ。
「三蔵、ひとりで行っちゃうんですから、捜しましたよ。」
相変わらずのペースに目眩すら覚える。
「・・・・・・行きたくて行ったわけじゃねえよ。」
八戒がくすくすと口元をおさえる。悟浄ががしりと三蔵の肩に腕を回した。
「あら、三蔵様ったらお疲れなの〜?俺たちが向こうで苦労してる間に、こぉんなの一匹にてこずってたわけだ。」
死体を小突いてみせる。
「うるせー」
はらったついでに殴ってやろうと伸ばした腕はかわされるわ、予定外の運動で疲れるわ、もうじき日も暮れようと言うのにまだ山の中だわ、胸クソ悪ィ幻は見せられるわ−最悪だ。
「あーもー俺、腹減って死にそー。」
「それじゃさっさとジープに戻って街に向かいましょうね。」
「お、今晩は野宿じゃねーんだな?」
「だからさっさと行けば間に合うかなーって。」
「だってよー、とっとと行こうぜ、三蔵、ぼーっとしてねーでよ!」
「誰がぼーっとしてんだ、誰が!!」
−ガウン
一発だけ残っていた弾をきれいに撃ち尽くし、薬莢をバラバラと地面に放り出す。ふと手元の銃に目をやった。
いつでもこのこめかみを撃ち抜けるサイズ。
あのときはそう思った。
今は。
血の味を知っている。立ち止まってしまう事の、怖さを知っている。
(俺の行く手を阻む者を殺し続ける、その為に)
充分なサイズだ。
「あーもー日ィ沈んじゃいそうだよー。」
「それじゃとばしますかね。」
強引なギアチェンジにがくりと車体が大きく揺らぐ。
「・・・・・・てェ、頭打ったぁー。」
「うはは、ニブガッパだニブガッパ!!」
「うっせーんだよ、サル!!」
「うっせーのはお前ら二人ともなんだよ、黙れ!!」
怒鳴り声一つでぴたりと後部座席は静まり返った。と次はコソコソ二人で話し出す。
「つーか、三蔵、いつもよりキてねー?」
「・・・・・・しーえー不足だな、しーえー。」
「しーえー?」
「カルシウムだっつーの、分かれよ!」
「分かんねーよ!」
八戒がハンドルを握ったまま声を上げる。
「ほら、二人ともまたケンカする気ですかぁ?三蔵、いつもよりキてますから。ね?」
視線を外して三蔵は短く鼻を鳴らすとシートに深く背を沈めた。
「着いたら起こせ。」
返事は待たずに目を閉じる。
背中を預けたシートを通してジープの振動が伝わってくる。走り続ける鼓動を感じる。
自分の胸にも、いのちを刻み続ける鼓動がある。
いつか倒れるそのときまでは−きっと走り続けていくその為に。





Mix juice 様でキリ番を踏・・・・・・つーか略奪(苦笑)したしてしまったのでお詫びに贈らせて頂きました。向こうでもきれいに飾っていてくれています。こんなものを・・・・・・・(汗)。私にはどうしても自分で書いておきながら、
生の温度がナマの温度と見えて仕方ありません!!
正直に手を挙げましょう。みんなもそう見えませんか。見える筈です!!