Happy Birthday To You |
君のために ハッピーバースデーを唄おう 最高のこの日に 久々に辿り着いたその街は随分な盛況ぶりで、その目抜き通りには露店の姿も多く見かけられた。勿論、 そこで扱われている商品の多くは・・・食べ物であった。そして勿論、三蔵一行がそんな場所をすんなりと・・・ 通り抜けられるはずもないのだった。 悟空は目敏く蒸籠の積み上げられた露店を見つけ、指さす。 「ねーねー三蔵、あれ買って!」 蒸籠の中身が何であれ悟空にとってはどうでもいいことで、 自然と口から出るのはアレという指示代名詞になる。で、袖を引かれている三蔵はというと、 やはり蒸籠の中身が何であれ答えに変わりはないので振り返ることもしない。 「却下。」 一見すがりようもない返事だが、そんなことで引き下がる悟空ではない。 「ねーいーじゃん、買ってよぉ」 しかしいかにしつこいおねだりであろうともそんなことで折れる三蔵でもない。 「しつこい!」 結局悟空の方が根負けすることになる。 「ケチ!タレ目!」 怒らせてしまったが最後、望みは絶たれることになってしまうのだが。 「誰がタレ目だ。」 「ハゲ!」 「・・・・・・。」 三蔵は特に応じる様子すらない。 「三蔵、いいじゃないですかあれぐらい。」 八戒が見かねて口を挟むが、やはり三蔵は言う。 「キリがねぇんだよ、アイツの場合。」 それまで黙って聞いていた悟浄が笑った。 「それは言えてんな、頭まで胃袋でできてんじゃねえの?」 悟空がなんだよっと振り返った。 「聞こえなかった?やっぱり全身胃袋だからか?」 「き・こ・え・て・る・よ!」 「おーそりゃよかった。せいぜい首までぐらいですんでるみたいだな。」 「なんだよ、色欲魔よりマシだろ!?」 「やる気かぁ、この食欲魔!」 「やらいでかっ」 すぐにでもとっくみあいに発展しそうな二人の様子に苦笑を漏らしつつ八戒は三蔵に目をやる。 「あららら・・・」 止める間もなく三蔵の手は既に懐中に伸びていた。こうなったら余計な口は挟まないのが得策と言うものである。 しかし。 「おい!」 鋭い一声に悟空と悟浄はほとんど反射的に身構えた。 のだが。 三蔵の手には銃もハリセンもなかった。 どう反応したものか、誰からも何の言葉もない。そんな中つかつかと三蔵は悟空に歩み寄った。 その手からじゃらじゃらと幾ばくかの小銭が落とされた。 「え・・・」 掌の小銭と三蔵の顔を代わる代わる見比べて悟空は続く言葉を待った。 「さっさと買ってこい!」 「う、うん。分かった、サンキュ!」 妙な威圧感に急な気変わりの訳を聞くことも出来ず、悟空は随分と遠くなってしまった先程の露店に向かって走った。 それを見届けると三蔵は戻ってくるのを待つはずもなくまたすたすたと歩き出す。 その背を見ながらしばし悟浄と八戒は呆然と立ち止まってしまった。 「何あれ・・・?」 「いや僕にもちょっと・・・・・・。」 顔を見合わせてみたところで答えが湧いてくるはずもなく二人は仕方なく三蔵の後を追う。 「なんかこえーなー。」 「雨でも降りますかね。」 「何か言ったか?」 今度こそ銃なりハリセンなり出てきそうな勢いに悟浄は首を振る。 「俺はなんも言ってねーよ!」 三蔵はそれっきりでまたすたすたと歩き出す。 「っくしょ、何で俺なんだよ・・・。」 それを笑って見ていた八戒だったがはたとあることに思い当たって、あ、と短く呟いた。 「もしかして・・・」 「ん?なんだよ。」 そこへ満足顔の悟空が軽い足取りで戻ってきた。 「ああ、お帰りなさい。何買ってきたんですか?」 「肉まん!」 笑顔で悟空は答える。早速袋からその肉まんを取り出しながら、しかし悟空は顔をしかめた。 「どーしたんだろ、三蔵ってば急にさ。」 「おおおお、それだよ、八戒お前なんか思いついたんじゃねえの?」 もしかしたらということですけど、と念入りに前置きして八戒は言った。 「いえね、僕も今まで忘れてたんですが今日って悟空の誕生日じゃなかったかなって。」 当の悟空本人も同じだったらしくああと声を上げた。だが依然悟浄は顔をしかめたままだ。 「それでアイツが?マジで?」 「そー言われると僕も自信ないですけど。」 「絶対そうだって!!」 悟空はぱっと顔いっぱいに笑顔を広げた。手にした肉まんを慎重に二つに割って、 そうしておいてからまた袋に収める。顔を上げると三蔵はもう随分先まで一人で歩いていってしまっている。 悟空はそこまでちゃんと聞こえるように大きく呼んだ。 「さーんぞ!」 振り返らない背中に向かって駆け出す。そして追いつくなり走ってきた勢いそのままで両手を三蔵の腰に絡めた。 「何するんだ、このサル!!」 勢いでつんのめった三蔵は腰に手を回したまま離れない悟空の頭をぐっと押さえた。しかし悟空は笑顔を崩さない。 「えへへへへ、ありがとな、三蔵。」 「何のことだ。」 「だから、肉まん!」 悟空はそう言ってようやく手を離した。三蔵は衣服の乱れを軽く手ではたいて直すだけだ。 「ふん。」 悟空は背伸びするようにしてその目の前に半分にした肉まんを差し出す。 ほくほくと立ち上るおいしそうな湯気の向こうには相変わらずの無愛想な顔。 「な、な、半分要る?」 「いらん。」 「いいからやるって!」 半ば無理矢理肉まんの片割れを押しつけて悟空は三蔵よりも更に先を歩き出した。 「なんだ、アイツは。」 「さあねぇ?」 今追いついた悟浄がのんびりと言う。ところで、とその横で八戒が問いかける。 「今日は大分距離も稼ぎましたし、疲れてないですか三蔵?」 「なんだ?」 三蔵は訝しげに眉を寄せる。 悟浄も八戒の言葉に同意するように大きく伸びをした。 「あー、俺もなんかすんげ疲れた!」 「ついでにいつもの倍くらい食べれそうな感じ、なんですよね?」 「そうそう。ってわけだから、ちょぉっとフンパツした所に宿とらねぇ?」 「で、ついでに誰かさんのスペシャルデイですしね?」 「だな。」 両脇からの視線に三蔵は足を早めて歩き出す。二人からやや離れてようやく口を開いた。 「ふん、好きにしろ。」 ハッピーバースデーを唄おう 君のために ハッピーバースデーを唄おう 最高のこの日に だけど ハッピーバースデーと唄わなくても きっと想ってる この世に君の生まれた奇跡を だから 誕生日おめでとう |
こちらは里子に出ていた作品なのですが、そちらのサイトが残念なことに閉鎖と相成ってしまいましたので、 |