赤の疑惑
その日三蔵一行は暇だった。 がたがたといかにも平和な音を立てながら走るジープの上。まるでそうしていれば勝手に美味しいものが降ってくるとでも思っているかのように口を開けたままぼうっと空を見上げていた悟空が、なーと声を上げた。 「オレ、この前、ほらあれ−えと『くせ毛のナン』?」 横からぺしっと悟浄が軽く悟空の額をはたいた。 「違うだろ、『枝毛のヤン』」 運転席でそっと隣の顔色を伺いつつ八戒も口を開いた。 「何言ってるんですか、あれは『サイケの・・・・・・」 遂に三蔵がぼそりと呟いた。 「え、何ですか、三蔵?」 三蔵は外の景色に目をやったまま続けた。
「赤毛。赤毛のアンだろうが。」 「あーあそうでしたねえ。」 「なんで忘れてたんだろうな。」 「そうそうそれそれ、そんでアンの恋人って・・・・・・ビルフォード?」 悟浄が続ける。 「ちげーよ、ハーバードだろ?」 「いえいえ、オックスフォードじゃありませんでした?それともケンブリッジとかでしたかねえ?」 八戒は隣席から殺気に似たものを感じないでもなかったが涼しい顔で言い切った。 まだ更に悟浄が何かしらいい足そうとしたその時、相変わらず顔はこちらに向けないまま三蔵が呟いた。 「ギルバート。」 「おーそいつそいつ!」言いながら悟浄は顔がにやついてくるのを耐えるのに必死だった。隣で既にシートにうつ伏せになって体を震わせている悟空を三蔵には悟られないように小突く。幸い三蔵は外に視線を向わせたままだった。 やっと笑いの発作から解放された悟空は役目を果たすべく予め用意されていた台詞を口にする。 「アンってさあ、髪黒くしようとして・・・・・・」 「サーモンピンクにしたんだよな。」 「え、メタリックゴールドじゃありませんでした?」 「・・・・・・緑。」 今までよりひときわ大きな声で三蔵が割って入った。今度は車内を見渡すように繰り返す。「緑だろ?」 一瞬の沈黙の末リアシートの二人がどっと吹き出した。八戒も下を向いて肩を震わせている。 「まさかマジ!?」 「だからゆったじゃん、オレ−ッ!」 「だってサルのいうことだろぉ?」 「本当なんだって!昔、三蔵の部屋で『赤毛のアン』とか『アンの青春』とか」 しかし悟空の言葉は銃声にかき消された。そこにいつもならセットでもれなく付いてくる怒声はない。二人がそっと三蔵の様子をうかがうと、その視線を受けて彼は一言だけ言った。 「絶対に、読んでない。」 |
厳密にはコレ幻想魔伝ネタですねえええ。
言ってたんですよ、悟浄に。「赤毛のアン」て。これはかなりヒットでした。
さて、玄奘三蔵様の誕生日記念と称してこのようなあほコンテンツを増設してしまいましたv
大丈夫です、これもまた愛ゆえですから。