□第三話「一応それらしく。」

「……一応、こんなところまで来てみましたが……。」
 八戒は困ったように語尾を濁した。
 後の三人からも言葉は無い。
 今、一行は、岩肌にぽっかりと口を空けた洞窟の前に立っていた。幅は
四人が並んで歩けるほど、高さも十分にある。入り口から数メートルは外
の光が差し込んでいることで、四人の立っている場所からでも様子がうか
がえた。岩がごろごろと転がった地面は一見天然のもののようだが良く見
れば人工的な敷石があるのが分かる。天然の洞窟に人の手が加わったもの
なのだろう。或いは。
「チッ、面倒だな……。」
 三蔵は相変わらずやる気なくそれだけ言った。
「でももう前金頂いちゃいましたよ?」
 八戒は荷物の中から銅貨の詰まった袋を取り出して見せる。
「ここまで来たらもうやるひかないっひょ〜?」
 悟浄も欠伸交じりにだが、そう急かした。
「そうだよ、早くやっつけて帰ってメシ!!」
 悟空はある意味でやる気のようだ。
 一行が目の前にしているのは、魔物の住処と噂される洞窟だったのだ。
 近隣の村に立ち寄った際、村人たちに魔物退治を頼まれてしまったのだ。
手厚く歓迎され、ここが危険な所為でいかに困っているかなど聞かされ、
つまるところ人情に訴えられた上に、礼金まで持ちかけられては流石に断
ることも出来ず、こうしてやってきたのだ。
「……まあ、行くか。」
 溜息混じりに一歩踏み出した三蔵の肩を八戒が引き止めた。
「待ってください、三蔵。」
「なんだ?」
 面倒くさそうに片眉を引き上げる三蔵に八戒は首を振る。
「ここは一見したところただの天然洞窟ですが、よく見ると人の手の加わ
った痕跡があります、一種のダンジョンと考えていいでしょう。」
「で?」
 続きを促す。
「モンスターの中にも人間並みの知能を持つ者は居ます、なれば罠が仕掛
けられている可能性も否定できません。特に入り口は注意しなくては。」
 悟空がぽんと手を打った。
「そっかー、こういうときにシーフが居れば便利なのかー。鍵開けとか罠
解除とか偵察とか出来るモンな。」
 ふむ、と三蔵が軽く目を瞑った。
「とにかく、誰か調べりゃいいんだろう。」
 その台詞の「誰か」の辺りで既に、三人の目はひとりの人物に集中して
いた。三蔵は然るべくしてその人物に向けて言った。
「よし、悟浄、テメェ先にちょっと言って調べて来い。」
「俺ェ!?」
 三蔵は懐から銃を覗かせる。
「ここで死ぬのと奥でちょっと調べ物するのとどっちがマシか良く考える
んだな。」
 悟浄は両手を挙げて踵を返した。
「ヘイヘイ、俺がいきゃあいいんでしょ―。」
 歩く悟浄の姿はすぐに闇に飲まれた。ぶつぶつとこぼす愚痴が遠ざかり、
足音も消えていく。
 ややあって。
―ゴロゴロゴロゴロ……ガシャアアアアアアアン……
「ぎゃあああああああああああああああああッ」
 何かが転がったりぶつかったり崩れたりしたような大音響と悟浄の悲鳴
が外にまで響き渡った。
 ややあって。
「……静かになったな。」
 三蔵はゆっくりと煙草をふかす合間についでのように言う。
「何も聞こえませんね。」
 八戒ものんびりとそれに応じる。
「そんで悟浄戻ってこないんだけど。」
 腹減った、と悟空は小さく付け足す。
 三蔵はぷかりと大きく煙を吐き出すと、短くなった煙草を地面に落とし、
踏み消した。そして、一際大きく息を吸い込むとくるりと洞窟に背を向け
た。
「出直すか!」
 八戒もにこりと表情を変えた。
「それがいいでしょう、悟浄、あなたの犠牲は無駄にはしませんから!」
「俺、晩御飯、中華くいたーい!」
「こんな田舎で無理言うな!」
「それより新しいメンバー探さなきゃですよー。」
「やっぱこの際だからシーフ探そうぜ?」
「白魔導士も捨て難いですけどねえ。」
「……その構成だと攻撃に不利だろう。」
「誰かさんが僧侶なのに回復系の呪文持ってないのがキツイんですよねえ。」
「……で、村のヤツらにはなんて言うんだ?」
「適当に中の様子探ってきたんで、本番は明日とでも言えばまた泊めてく
ださいますよ。」
「……タチ悪ィなテメェ……」
「あははははは」
  あっさり仲間も見捨てるか、三蔵一行!!(主に悟浄の)未来はあるのかこ
んちくしょー、次回へ続く。