□第十一話「めぐりあい・宇宙……ではないのだけれど。」 ―悟浄はパフパフした! ―モンスターをやっつけた! ―悟浄はまたしてもパフパフした! ―モンスターをやっつけた! ―悟浄はこれでもかとパフパフした! ―モンスターをやっつけた! ―悟浄はどんどんパフパフした! ―モンスターをやっつけた! 「いいぞー、悟浄ッ!」 「本当、悟浄は頼りになりますねえ。」 「今度ばかりは感謝だな。……クッ。」 「あ―も―まとめてかかってこ―い(泣)!」 「おや悟浄、(泣)だなんて付けること無いじゃないですか。」 「そうだよ、頼りになる男なんだからカッコイイじゃん!」 「クッソ―!!」 悟浄は自棄になっていた。 しかし相変わらずパフパフは逆チャーム技として絶大な効果を示し、 殆どの敵を一撃で地に落とした。プライドさえ捨てれば現時点では最 強の技といえるかもしれない。そして悟浄は今まさにそのプライドを ぼろぼろにしつつあった。 パーティーで一番の攻撃力を誇る悟空の攻撃値が今のところ平均し て15から20である中、一律150の攻撃力は殆どでたらめな強さ だ。今のこの危機的な事態にあってこれを使わない理由は何処にも無 い。 そして悟浄の血の滲むような精神的労苦の果てに、一行は街まであ と一歩と言うところまでたどり着いていた。 「御苦労様でしたね、悟浄。」 「オー、いいってことよー。」 振り返った悟浄の目は何処か虚ろだ。八戒は流石に微苦笑して言う。 「だから御苦労様でしたって。僕らも流石に悪いとは思ってるんです。 ですけど、今はこうするしかなかったんですから―」 「だァらいいってことよ!ハッ。」 「えーと……。」 しかしそこで三蔵が八戒の先を手で制した。 「待て、まだだ!気配が―!」 緊張を感じ取った悟空がいち早く気配のする方へと構えた。ざっと 土が鳴る。八戒も三蔵もそちらへ素早く身を返し、遅れて悟浄もゆら りと身体の向きを変えた。 そこには―。 「ウゲッ、なんか臭いと思ったら腐った死体じゃん!!」 悟空から幾分距離を取ったその先には、目も当てられないモンスタ ーの姿があった。やぶれおちそうな衣服、同じようになった皮膚、落 ちかけた目玉、虫がたかり辺りには異臭が漂う……紛れもなく腐った 死体だ。完全に動きを止めるまで襲ってくる厄介なモンスターだ。 「手強いな……。」 「でも大丈夫ですよ、僕らには悟浄が居ますからvv」 三人の期待の視線が一斉に悟浄に集まる。 「マジかよ……。腐った死体だぞ?あれに接触しろってのか!?」 哀願するように悟浄は訴える。 「武闘家の皆さんだって接触しますよ、がんばってください、悟浄!」 八戒は的外れな例えと共にあっさりその訴えを退けた。 「分かってるだろ俺たちの状況!頼むよ悟浄!!」 悟空の言うことは至極最もだ。 「俺からもだ。……これ以上言わせたいか?なんなら土下座するか?」 三蔵の最後の一言に悟浄は思いっきり首を振った。 「そっちのがこえーよ!!クソッ、イきゃあいいんだろ、イきゃあッ」 悟浄は少し身構えると、一気に腐った死体に躍りかかった。 ―悟浄は自暴自棄でパフパフした! ―腐った死体に150のダメージ! ―腐った死体をやっつけた! 「よくやりました悟浄!……でも近付かないでくださいね!」 「ありがとう悟浄!……でも風下に行ってくれよな!」 「フン。……俺の半径三メートル以内に入ってきたら射殺だ。」 悟浄は最早三人の言葉に黙って耐えるしかなかった。 が―。 その三人の背後で、倒れた腐った死体の動く気配があった。 三人が三人ともそれを敏感に察知し、一様に、振り返る。 「まさか効かなかったのか……?」 「マズイですよ。もしそうなら、今の僕らに倒せるかどうか。」 三蔵は舌打ちと共に悟浄を見遣る。 「役立たずが。」 「……ヒドイ言われ様だなオイ。」 悟空が辺りに油断なく目を配る。 「他にモンスターはいないみたいだしいちかばちか逃げるし か!!」 「博打だな……!」 三蔵は忌々しく既に近くに見えている街の外郭の門を確認 する。距離は一息で走れる程。 「よし、もしヤツが襲ってきたら……」 その言葉を八戒が遮った。 「待ってください、様子が……」 ―なんと腐った死体が起き上がって悟浄を熱い眼差しで見つ めている! ―どうやら惚れてしまったようだ! ―腐った死体は仲間になりたがっている! 状況の読めた悟空は遠慮なく笑い出した。 「だってよ―、悟浄、モッテモテ〜!!」 「テッメェ、人事だと思いやがって!」 「駄目ですよ、悟浄。それに生前は素敵な方だったかもしれ ないじゃないですか?」 「今はどうなんだよ今は!!」 「ふん、今は少しでも戦力が欲しいしな。……クッ。」 「だからその笑いはなんだ笑いはァッ!!」 鼻腔を襲う異臭。 そしてその騒ぎにいつのまにかその腐った死体も加わって いる。 「え―?悟浄さんっておっしゃるんですかぁ〜?ハナコ、も う悟浄さんにメロメロなんですぅ〜vv」 「あ、ハナコさんってんだ?よろしくね、ハナコさん!」 「あ、よろしくお願いしますッ!」 「悟空、テメェ勝手なこと抜かしてるんじゃねえッ!」 「え、でも、こちらのリーダーの方が、戦力はあった方がっ て……あたし体力と力には自信あるんですvv」 「ほう、一目で俺がリーダーだと?」 「えー、だって他にいませんもの〜。」 「よし、決定だ、付いて来い!但しもう少し離れろ。」 「あ、ハイ!ありがとうございますぅ〜vv」 「ハナコさん、悟浄には近付いても大丈夫ですよ。彼、女性 にはやさしいんです。」 「そうなんですか?!ハナコますますクラクラ〜vvあ、思わ ず内臓出ちゃったvv」 「ああ、気を付けないと。」 「ありがとうございますvv」 「テメェら人事だと思って……!」 「じゃ、街に行きますか〜。」 「クソ……(涙)!!」 こうして悟浄以外は忽ちハナコさんに馴染み、一行に新た な仲間が加わる運びとなった!! 頑張れ悟浄、負けるな悟浄、空のお星様はいつでも君を見 ている、さてはて新たな仲間を加え、三蔵一行の旅はどうな るのか―以下次号へ続く!!